Proxmox VE

VMware ESXi経験者のためのProxmox入門

社内エンジニア向けハンズオンワークショップ

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内容

  1. Proxmox VEとは
    • 概要と特徴
    • VMwareとの主な違い
  2. ラボ環境の構成説明
    • 3ノードクラスタ構成
    • Cephストレージの活用
    • ネットワーク設定
  3. シナリオ1:基本操作デモ
    • WebUIの基本操作
    • VM作成
    • ライブマイグレーション(vMotion相当)
    • ストレージマイグレーション
  4. シナリオ2:障害対応試験
    • ノード障害シミュレーション
    • HA機能による自動復旧
    • クラスタ復旧プロセス
  5. シナリオ3:バックアップ&リストア
    • Proxmox Backup Serverの利用
    • VMバックアップの取得
    • リストア操作
  6. VMware/Nutanixとの比較と導入メリット
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1. Proxmox VEとは

Proxmox Virtual Environment

Proxmox VEは、KVMハイパーバイザーとLXCコンテナを統合したオープンソースの仮想化プラットフォームです。Debian Linuxをベースにしており、Webインターフェースを通じて簡単に管理できます。

バージョン: 最新は8.4(本ラボでは8.3.3を使用)

ライセンス: GNU AGPL, v3

開発元: Proxmox Server Solutions GmbH(オーストリア)

主な特徴

  • KVMとLXCの統合管理
  • Webベース管理インターフェース
  • クラスタ管理機能
  • ソフトウェア定義ストレージ(Ceph, ZFS)
  • ライブマイグレーション
  • 高可用性(HA)機能
  • 統合バックアップソリューション
  • ファイアウォールとSDN機能

VMwareとの主な違い

機能/特性 Proxmox VE VMware vSphere
ライセンス オープンソース
(有償サポートあり)
商用ライセンス
(機能ごとのエディション)
管理ツール WebUI + CLI vCenter + CLI
仮想化技術 KVM + LXC ESXi (独自)
コンテナ対応 ネイティブ (LXC) vSphere Pods (追加機能)
ストレージ Ceph, ZFS, NFS等 VMFS, vSAN等
導入コスト 低コスト (サポート選択制) 高コスト (階層別ライセンス)

導入メリット

  • コスト削減(ライセンス費用、管理ツール)
  • ベンダーロックインの回避
  • シンプルな管理(単一インターフェース)
  • コンテナと仮想マシンの統合管理
  • コミュニティサポートの活用
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2. ラボ環境の構成説明

環境概要

本ラボでは3台のサーバーでProxmoxクラスタを構成し、Cephを使った分散ストレージを実装しています。この構成によりHA(高可用性)機能や、ライブマイグレーションなどの検証が可能です。

ラボ環境構成図

Proxmoxラボ構成図

ハードウェア構成

サーバー機種: DELL EMC PowerEdge R630
CPU: Intel Xeon E5-2699 2.2GHz x2(88コア、HTあり)
メモリ: 32GB RDIMM / 246GB/s x16 / 512GB
ストレージ1: 146GB SSDローカル(OS用)
ストレージ2: 2TB NVMe x2(Ceph用)
ストレージ3: 1.2TB 10K SAS HDD x8(Ceph用)
ネットワーク: Intel XL710 DualPort 40GbE QSFP+
OS: Proxmox VE 8.3.3(Debian ベース)

ネットワーク構成

Cephネットワーク: VLAN 1012(10.1.2.0/24)
NFS用ネットワーク: VLAN 1014(10.1.4.0/24)
管理ネットワーク: VLAN 1201(192.168.123.0/24)
VM用ネットワーク1: VLAN 1202(192.168.124.0/24)
VM用ネットワーク2: VLAN 1203

ストレージ構成

Cephストレージクラスタ

  • • 3ノードによる分散ストレージ構成
  • • レプリケーション係数: 3(データの3重冗長)
  • • OSD: 各ノードに複数配置
  • • プール構成: VMs用、コンテナ用、バックアップ用
  • • RBDインターフェース使用

Cephは分散ストレージシステムで、データの冗長性と高可用性を提供します。VMware vSANに相当する機能を持ちます。

追加ストレージリソース

  • • ローカルストレージ: OSおよび一時データ用
  • • NFS ストレージ: 仮想マシンのデータ用

Ceph vs vSAN

CephはvSANと同様の分散ストレージですが、オープンソースであり、ハードウェア要件が柔軟です。ただし、適切な構成を行わないとパフォーマンスに影響する場合があります。

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3. シナリオ1: 基本操作デモ

WebUIの基本操作

ProxmoxのWebUIはシンプルでありながら強力な管理機能を提供します。VMware vSphereユーザーにとっても直感的に操作できるインターフェースです。

  • 左側パネル: データセンター、ノード、VM一覧
  • 中央パネル: 詳細情報、設定項目
  • 上部メニュー: 操作ボタン、検索、ヘルプ
  • サマリービュー: リソース使用状況

※vCenter Serverのような追加サーバーは不要。各ノードが管理機能を持っています。

Proxmox VE WebUI画面

Proxmox VEログイン画面

(ログイン後の管理画面スクリーンショット)

VM作成

VMwareと同様に、直感的な操作でVMを作成し、OSをインストールすることができます。

デモ内容

  1. 「VMを作成」ボタンをクリック
  2. VM名、OS種別を設定
  3. ISOイメージを選択(Rocky Linux 9.2)
  4. CPU、メモリサイズを設定
  5. ディスクを設定(Cephストレージ上)
  6. ネットワーク設定(VLAN 1202)
  7. 設定を確認し、VMを作成

ポイント解説

  • VMware同様のVMウィザード
  • OSテンプレートも利用可能
  • 複数のストレージタイプから選択可能
  • 仮想ハードウェアのカスタマイズも可能
  • クローン作成・テンプレート化も容易
  • VNCやSPICEによるコンソールアクセス

# CLI経由でのVM作成も可能(参考)

qm create 101 –name “rocky02” –memory 2048 –cores 1 –net0 virtio,bridge=vmbr1 \

–ide2 ITSC-FNAS-04:iso/Rocky-9.2-x86_64-minimal.iso,media=cdrom \

–scsihw virtio-scsi-pci –scsi0 CephPool:32,format=raw

ライブマイグレーション(vMotion相当)

VMwareのvMotionと同様に、稼働中のVMを停止することなく別のノードに移動できます。これにより、メンテナンスやロードバランシングが可能になります。

デモ手順

  1. 稼働中のVM(テストVM)を選択
  2. マイグレートボタンをクリック
  3. 移行先のノードを選択(ITSC-PMVE-02 → 03)
  4. マイグレーション実行
  5. 進捗状況の表示と解説

CLIコマンド(参考)

qm migrate 101 ITSC-PMVE-03 –online

マイグレーション要件

  • 共有ストレージ: Ceph、NFS、iSCSIなどが必要(本環境ではCeph)
  • ネットワーク: 高速な内部ネットワーク推奨(本環境では40GbE)
  • CPU互換性: クラスタ内のCPUに互換性が必要
  • メモリリソース: 移行先に十分なメモリ空き容量が必要

VMwareとの違い

ProxmoxのライブマイグレーションはvMotionと同様に動作しますが、専用のライセンスや追加ソフトウェアが不要です。基本機能として標準搭載されています。

ストレージマイグレーション

VMのディスクを別のストレージに移動することもできます。これはVMwareのStorage vMotionに相当する機能です。

デモ手順

  1. 対象VMの「ハードウェア」タブを選択
  2. 移行するディスクを選択
  3. 「ストレージの移動」ボタンをクリック
  4. 移行先ストレージを選択(例: Ceph→NFS)
  5. 移行開始と進捗確認

オンラインマイグレーション

VMが稼働中でもディスク移行が可能です。バックグラウンドでブロックレベルのコピーが行われ、最後に差分のみが同期されます。

ストレージ間移行のユースケース

  • ストレージのパフォーマンス最適化
  • 新ストレージへの移行
  • ストレージ容量の再分配
  • 異なるストレージタイプの使い分け

# CLI経由でのディスク移行コマンド(参考)

qm move_disk 101 scsi0 nfs_nfs02 –format qcow2

対応ストレージタイプ

  • Ceph RBD (分散ブロックストレージ)
  • ZFS (ローカルまたは共有)
  • LVM (Logical Volume Manager)
  • Directory (ファイルストレージ)
  • NFS, iSCSI, GlusterFS等
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4. シナリオ2: 障害対応試験

高可用性(HA)機能の概要

Proxmoxの高可用性(HA)機能はVMware vSphereのHAに相当し、ノード障害発生時にVMを自動的に別ノードで再起動する機能です。

HA機能の主な特徴

  • ノード障害時の自動VM復旧
  • フェンシング機能(分断時の保護)
  • リソース分散制御(ロードバランシング)
  • VMごとにHA設定が可能
  • クラスタマネージャによる一元管理

HA要件

  • 最低3ノード以上のクラスタ(クォーラム確保)
  • 共有ストレージ(Ceph, NFS等)
  • 安定したクラスタネットワーク
  • 十分なリソースの余裕

注意点

HA機能はダウンタイムをゼロにするものではなく、障害発生時のダウンタイムを最小限にするための機能です。完全な無停止運用にはアプリケーションレベルの冗長化も必要です。

HAの設定方法

デモ:HA設定手順

  1. 対象VMを選択
  2. 「More」ボタン→「HAの管理」メニュー選択
  3. 「Max. Restart」 に 1 を入力(障害時に同じノードで再起動を試みる回数)
  4. 「Max. Relocate」 に 1 を入力(再起動失敗時に別ノードへ移動して起動する試行回数)
  5. 「要求状態」を started に設定(自動起動)
  6. 設定保存

# CLI経由でのHA設定(参考)

ha-manager add vm:101

ha-manager set vm:101 –state started –max_restart 1 –max_relocate 1

障害対応デモ

ノード障害が発生した場合にVMが自動的に別ノードに移行される様子を確認します。

テストシナリオ

  1. テスト用VM(HA有効)がITSC-PMVE-02で稼働中
  2. VMの状態確認(ping応答やWebアクセス確認)
  3. ITSC-PMVE-02の再起動を実行(障害シミュレーション)
  4. HAマネージャがノード障害を検出
  5. 対象VMを別ノード(ITSC-PMVE-03または04)で再起動
  6. VMの復帰確認(ping応答再開)
  7. ダウンタイムの確認と説明

監視項目

  • HAマネージャのログ(/var/log/pve-ha-manager/)
  • クラスタステータス(CLI: pvecm status)
  • VM動作状態(ping応答時間)
  • HA復旧プロセスの動作時間

実環境での重要ポイント

実環境では、サービスの重要度に応じてVM間で優先度設定を行い、リソース不足時の起動順序を制御することが重要です。また、ネットワーク分断対策としてフェンシング設定も検討が必要です。

VMware vSphere HAとの比較

機能 Proxmox HA VMware vSphere HA
基本動作原理 クォーラム型クラスタ管理 Primary/Secondary方式
最小ノード数 3ノード(推奨) 2ノード
フェンシング 内蔵(watchdog) 内蔵(APD/PDL処理)
リソース予約 手動計画 自動(アドミッションコントロール)
別ライセンス 不要(標準機能) 必要(Standard以上)
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5. シナリオ3: バックアップ&リストア

Proxmox Backup Server概要

Proxmox Backup Server (PBS)は、Proxmox VEと統合された専用バックアップソリューションで、VMware vSphere Data Protectionに相当する機能を提供します。

Proxmox Backup Serverの特徴

  • エンタープライズ機能: 増分バックアップ、重複排除、圧縮
  • 整合性保証: VMのクラッシュコンシステントバックアップ
  • 効率的なストレージ: データチャンクの重複排除と圧縮
  • 暗号化: AES-256-GCMによるエンドツーエンド暗号化
  • 柔軟なスケジュール: カレンダーベースのスケジュール設定
  • 認証: 2要素認証、ユーザー管理

インフラ構成

本デモでは、別のサーバーにインストールしたProxmox Backup Serverを使用しています。実運用では、物理的に分離された環境にバックアップサーバーを設置することをお勧めします。

バックアップデモ

ProxmoxでのVMバックアップは、WebUIから簡単に実行できます。

手動バックアップ手順

  1. 対象VMを選択
  2. 「Backup」ボタンをクリック
  3. バックアップストレージを選択(PBS)
  4. モード選択(停止/スナップショット)
  5. 圧縮方式を選択
  6. バックアップ開始
  7. 進捗確認

# CLI経由でのバックアップ(参考)

vzdump 100 –storage PBS –compress zstd –mode snapshot

スケジュールバックアップ設定

  1. データセンター→「Backup」タブを選択
  2. 「Add」ボタンでスケジュール追加
  3. 対象VM/CTを選択(All VMs等)
  4. スケジュール設定(毎日、週次など)
  5. 時間指定(業務時間外推奨)
  6. 保持期間の設定(例:14日間)
  7. バックアップモード/圧縮設定
  8. 保存して有効化

リストアデモ

バックアップからのリストアも直感的なインターフェースで実行できます。

リストア手順

  1. 「Storage View」タブを選択
  2. バックアップストレージ(PBS)を選択
  3. バックアップファイル一覧から対象を選択
  4. 「Restore」ボタンをクリック
  5. リストア先ノードを選択
  6. 新VM ID(元と同じか新規か選択)
  7. ストレージ先を選択
  8. リストア実行と進捗確認

リストアオプション

  • 同一VM ID上書き: 既存VMに上書き
  • 新規VM作成: 新しいIDで復元
  • 別ノードへの復元: 異なるノードに復元
  • 特定時点への復元: 複数バックアップから選択

検証用復元

本番環境を妨げずにバックアップ内容を検証したい場合、新しいVMとして異なるネットワークにリストアする方法も有効です。

VMware製品との比較

機能 Proxmox Backup Server VMware製品
統合度 Proxmox VEと直接統合 vCenter経由で統合(vSphere Data Protection)
増分バックアップ 標準対応 標準対応
重複排除 ソースとターゲット両方 ターゲット側のみ(製品による)
サブスクリプション オプション(Community版は無料) 必須(VDP, vSphere等)
アプリ整合性 qemu-ga経由(一部対応) VSS対応(Windows)
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6. 総合比較と結論

VMware/Nutanixとの比較

項目 Proxmox VE VMware vSphere Nutanix AHV
ライセンスモデル オープンソース
(サポートサブスクリプションあり)
商用ライセンス
(Essentials, Standard, Enterprise等)
商用ライセンス
(Nutanixプラットフォームに含まれる)
初期コスト 非常に低い 高い(vCenter Server含む) 非常に高い(HCI一体型)
運用コスト 低い(オプションサポート) 高い(継続的なライセンス) 高い(サブスクリプション)
管理の容易さ シンプル、統合UI 複雑だが高機能 シンプル、ワンクリック操作
エンタープライズ機能 一般的な機能は標準搭載 豊富(上位エディションで利用可能) 豊富(標準装備)
スケーラビリティ 中規模まで最適 大規模環境にも対応 大規模環境に最適化
自動化・統合 API, CLI, Ansible対応 PowerCLI, API, パートナー連携 REST API, Calm
コミュニティ 活発なオープンソースコミュニティ 大規模な企業・ユーザーコミュニティ 企業主導のコミュニティ

Proxmoxの強み

  • コスト効率: オープンソースでライセンスコストを大幅削減
  • 単一管理インターフェース: VM、コンテナ、ストレージ、ネットワークを一元管理
  • 標準機能: ライブマイグレーション、HA、バックアップが標準機能
  • ベンダーロックイン回避: 特定ベンダーに依存しない柔軟性
  • Linuxベース: 管理ノードが完全なLinuxでカスタマイズ性が高い
  • コンテナ統合: VM/コンテナのシームレスな運用

検討すべき課題

  • 技術サポート: 企業レベルのサポートはサブスクリプション必要
  • エコシステム: サードパーティ連携はVMwareより少ない
  • 運用知識: Linux/Ceph等の知識がより必要
  • 大規模環境: 超大規模環境での実績がVMwareより少ない
  • 移行コスト: 既存VMware環境からの移行には労力が必要

結論: Proxmoxの適用可能性

本日のデモを通じて、以下が確認できました:

  • Proxmox VEはVMwareと同等の基本機能を標準で提供
  • VMのライブマイグレーション、HAフェイルオーバー、バックアップなどが問題なく動作
  • WebUIを通じた直感的な管理が可能
  • Cephによる分散ストレージが効果的に機能

最適な導入シナリオ

  • コスト削減が求められる環境
  • テスト/開発環境
  • 中小規模のインフラ環境
  • ITリソースの最適化を追求するケース
  • コンテナ技術とVMの統合管理
  • 特定ベンダーからの独立を目指す戦略

今後の展開と検討事項

  • 小規模な本番環境での試験導入
  • 既存VMware環境との並行運用
  • 移行ツールとプロセスの検証
  • 運用チームのスキルアップ計画
  • サポートレベルの検討
  • TCO(総所有コスト)の詳細分析

Proxmox VEは、VMwareやNutanixの代替として、特に中小規模環境やコスト効率を重視するケースで十分に検討に値します。

オープンソースでありながら、エンタープライズレベルの機能を備えており、適切な計画と導入により大きなコスト削減と運用効率化が期待できます。

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ご質問・リソース

よくある質問

Q: Proxmoxのサポートはどのように受けられますか?

A: コミュニティフォーラムによる無償サポートと、Proxmox Server Solutionsが提供する有償サポートサブスクリプションがあります。サブスクリプションでは、エンタープライズレポジトリへのアクセスやチケットベースのサポートが提供されます。

Q: VMware環境からの移行は簡単ですか?

A: ある程度の労力は必要です。OVFエクスポート/インポートや、Proxmox V2V(変換)ヘルパーツールを使用することで移行できます。段階的な移行計画を立てることをお勧めします。

Q: Cephストレージの性能はvSANと比較してどうですか?

A: 適切に構成されたCephは良好な性能を発揮しますが、一般的にvSANの方が最適化されています。ただし、Cephは柔軟性に優れ、ハードウェア要件が厳しくないため、コスト効率の面で優位性があります。

Q: Proxmoxの将来性はどうですか?

A: 2008年の初リリース以来、安定した開発が続いており、ユーザーベースも拡大しています。オープンソースであるため、特定ベンダーの経営状況に左右されにくいという利点もあります。継続的な機能追加とセキュリティアップデートが行われています。

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